反射

 ラベンダーの香りが彼の鼻を掠めた。
「香水?」
 そう言って周囲を見回しながら首を傾げた。いつもの整理整頓された自室には、もちろん一人しかいなかった。
――気にしすぎか――
 新宿駅で見たその姿が脳裏に蘇る。
――背後を映した車窓からこちらを見ていた。
――長い黒髪と真っ赤なドレス。
――ホーム手前の真っ暗な構内に、満面の笑みをその顔に浮かべて彼女はいた。

 彼は記憶をかき消すように首を振ると、スマホへと手を伸ばした。

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