裡に住むもの

 一見すると無秩序で煩雑とした部家の片隅に、ジャン・バルジャンのように丸まって震える生き物が寝ていた。
 それは知識で武装し、心は本の壁で覆われていた。
 裡の世界は広く深く、何処までも優しく正しかった。それだけでよかった。
 興味がないのだ。外には愚かなものしかいない。そう信じていたから。
 初めてのことだった。初めて、そう、初めて居ることを知ったのだ。
 気高く、柔らかく照らし、隠れることを赦さぬ存在が居ることを。

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